ハシリドコロ（走野老）

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上・下：上高地。中は黄色、外側は濃い紫色の釣鐘状の花。

ハシリドコロ（走野老）Scopolia japonica　Maximowicz
真正双子葉植物Eudicots＞中核真正双子葉植物Core Eudicots＞キク類Asterids＞シソ群Lamiids
　　　ナス目Solanales　　　　　
　　　　　ナス科Solanaceae　ハシリドコロ属 Scopolia

別名：サワナス、オメキグサ、ユキワリソウ　

植物由来医薬品　ロートエキスの起源植物

生薬名　　：①ロートコン（ロート根）②ロート葉
利用部位　：①根茎（６月頃茎葉が枯れる以前に根茎を採取）　②葉（４月頃開花時の葉）　　
利用　　　：ロートエキスの製造原料、アトロピン硫酸塩製造原料　日本薬局方生薬
名前の由来：根茎がトコロ（オニドコロ、ヤマノイモ科）に似ているが、間違って飲食す

　　　　　　ると中毒し走り回って苦しむことからハシリドコロの名がある。

本州、九州北部、四国の山中や谷間のやや湿った木陰に野生する日本特産の多年草で有毒。
誤って食すると中毒のため苦しんでうめくのでオメキグサ、地方により沢地に生えるナスの意味からサワナス。残雪のある頃、芽生えるのでユキワリソウの別名があり、名前での判断は非常に危険。早春の頃、山地の渓谷沿いに生える。本ハシリドコロも上高地の林道沿いで自生していたもの写したものだ。

茎は直立しやや太い。草丈は３０～６０ｃｍ。上方に葉をつけ分岐する。
葉は柔らかく大きく尖った長楕円形。４月頃、葉腋から柄を出し釣鐘状の花を咲かせる。花はいかにも曰くありげで釣鐘状の内側が淡黄色、外側が濃い紫紅色。
花柄が長くなると花が下向きになり、咲き終わると花は抜け落ち緑色の蕚が残っている。
陽春の摘み草のころ、軟らかく、みずみずしい葉は一見、食べられそうに見える。しかし誤食すると大変なことになる。

全草、特に根茎にはアルカロイド（ヒヨスチアミン、スコポラミン、アトロピンなど）、配糖体（スコポリン）を含んでいる。日本の毒草の代表種。生薬のまま用いることはない。
根茎はロート根と呼ばれ、ロートエキスやアトロピン硫酸塩などに製薬される。

鎮痙、鎮痛薬など医療には欠かす事は出来ない。アトロピンは瞳孔散大作用があり、眼科治療に欠かせない。正に「毒と薬は紙一重」とはこのことだ。

幕末、長崎に滞在していたシーボルトは眼科医、土生玄碩に請われ瞳孔を散瞳するベラドンナの代わりに日本に自生するハシリドコロが同じように有効であることを伝えている。後シーボルト事件が起きたとき土生玄碩も罪を問われた。

なお、ハシリドコロをロウトウ（莨菪）というのは誤りで、ロウトウ（莨菪）はヒヨスの変種、中国産のシナヒヨスのことを指す。この薬効とロート根の薬効が同じことから、ロウトウ（莨菪）をあてたのがはじめで、それが現在にも慣例として用いられている。両種共に同じナス科。主成分、薬効もほぼ同じ。ロウトウ（莨菪）とは“のた打ち回る”中毒症状の形容で、ハシリドコロの名もその中毒症状により狂騒し走り回ることによる。

成分
　・アルカロイド：アトロピン、ヒヨスチアミン、スコポラミン、アポアトロピンなど
　・クマリン類：スコポリン、スコポレチンなど

利用
　・ロートエキス、硫酸アトロピンの製造原料　

　（ロート葉もロートコンと同様に使われるがアルカロイド含量は１／６と低い）

薬効
　　ロートエキスは鎮痛、鎮痙薬として胃酸分泌抑制、胃痛、十二指腸潰瘍に。

　　成分のアトロピン、スコポラミンは副交感神経遮断薬の製薬原料に用いられる。

参考文献
　　　・朝日百科　世界の植物　（朝日新聞社）
　　　・第15改正　日本薬局方解説書　（広川書店）
　　　・最新生薬学　刈米達夫著　　（広川書店）
　　　・薬用植物学各論　木村康一・木島正夫共著　（広川書店）
　　　・生薬単　原島広至著　　　　（株式会社エヌ・ティ・エス）
　　　・山渓名前図鑑　野草の名前　夏　高橋勝雄著　（山と渓谷社）
　　　・薬になる花　田中孝治　　　　(朝日新聞社)
　　　・植物分類表　大場秀章　編著　（アボック社）

ハシリドコロ（走野老）

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