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ムラサキ(紫)

商品写真
上・中:春日大社 万葉植物園
下:武田薬品 京都薬用植物園

ムラサキ(紫)Lithospermum erythrorhizon  Siebold et Zuccar
真正双子葉植物Eudicots>中核真正双子葉植物Core Eudicots>キク類Asterids>シソ群Lamiids
   目の所属未定
    ムラサキ科 Boraginaceae ムラサキ属 Lithospermum
 

万葉集に登場するムラサキ 

生薬名  シコン(紫根)
利用部分   :根
利用   :日本薬局方生薬、漢方薬処方生薬 、染料
名前の由来:「群れ咲き」がなまったものとする説がある。

古来から、紫は最も高貴な色として尊ばれてきた。紫の染料の元になったのが植物のムラサキ。
コウカ(紅花)、アイ(藍)とともに日本三大色素の一つに挙げられる


万葉集や古今集などで詠われる程、昔から親しまれてきたムラサキだが植物自体は、意外と地味で目立たない。草丈60cm〜1m位の多年草で茎は直立し葉は細長い。ムラサキの名からは想像しがたいがムラサキの花は紫色ではなく白色。6〜7月頃、小さな花を咲かせる。

ムラサキの紫たる身上は花にあるのではなく、立派な根こそが真骨頂。地上部の平凡さからは想像しがたいほど、暗紫色の根はしっかりと太く長く伸びている。10月ごろ根を堀あげて陽干し、乾いたら土をはらい落とす。水洗いはしない。生薬「シコン、コウシコン」(紫根、硬紫根)で、日本薬局方にも収録されている。紫の色素は主に根の皮の部分に含まれている。根の外面が濃紫色で、皮部が厚いものが良品とされている。
この根を臼で砕き微温湯に入れ、染める物を浸して取り出しツバキなどのアク(灰汁)を媒染剤として紫根染めが行われる。ムラサキのような色という事で紫色という言葉になったと言われている。


染色のみならずシコン(紫根)には、抗炎症作用、創傷治癒の促進作用、肉芽形成促進、殺菌作用などがあり、火傷、凍傷、水泡などの外用薬にする。
江戸末期の外科医、華岡青州が考案したシウンコウ(紫雲膏)の主剤にもなっている。シウンコウ(紫雲膏)はひび、あかぎれ、しもやけ、魚の目、あせも、ただれ、外傷、火傷、痔核による疼痛、肛門裂傷、湿疹・皮膚炎に有効とされている。痔の薬、新薬のボラギノールもシコンエキスを主要成分としていて、その名もムラサキ科Boraginaceae(ボラギナケアエ)の名に由来する。


主要成分
  ・ナフトキノン類(紫色色素):アセチルシコニン、シコニン、イソブチルシコニン、
                    β,βージメチルアクリルシコニン
  ・カフェ酸誘導体:ロスマリン酸、トリスペルミン酸 など。


主な薬効と用途
 解熱、解毒作用、抗炎症作用、創傷治癒の促進作用、殺菌作用
 ・紫根エキスは、やけど、痔、腫瘍、湿疹、いぼ、アトピーなどの治療に利用される。
 ・漢方処方用薬としては、皮膚疾患の外用薬として一処方「紫雲膏」(しうんこう)に配  

  合されている。紫雲膏は ゴマ油に紫根、ミツロウ、豚脂を加え加熱し、それに当帰  

  を加え煮て、漉したものを軟膏にして、やけど、しもやけ、痔の患部に塗る。和歌山  

  出身の華岡青洲の処方薬
 ・医療用、一般用医薬品の痔疾用剤にはシコンエキスが配合されたものがある。
 ・染料:古代紫、江戸紫などの染色に利用される。

ー万葉集に額田王と大海皇子の相聞歌に登場するムラサキー

・「茜さす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」額田王 巻1−20
・「紫草のにほえる妹を憎くあらば 人妻ゆえに我恋めやも」 大海人皇子(後の天武天皇)
                               巻1−21
古代のおおらかなロマンを詠った歌として有名なこの歌の標野という表現から天智天皇の領地、近江の国、蒲生野の薬狩の様子が伺える。
蒲生野では生薬・染料を得るためムラサキが標識で囲われ守られていたことが示唆されている。

ー古今集ー
「紫のひともとゆえに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見ゆ」という、ムラサキを詠んだ歌がある。
この歌から、その昔には、ムラサキが、武蔵野は無論、北海道から九州まで日本全土の日の当たる草原に普通に自生していた様子が伺える。特に江戸時代には「江戸紫」といわれるほどであったが、採り尽くされ、また、環境破壊などで、今は絶滅危惧種になっている。


参考文献
  ・朝日百科 世界の植物 (朝日新聞社)
  ・第15改正 日本薬局方解説書 (広川書店)
  ・最新生薬学 刈米達夫著  (広川書店)
  ・薬用植物学各論 木村康一・木島正夫共著 (広川書店)
  ・生薬単   原島広至著    (株式会社エヌ・ティ・エス)
  ・万葉の植物 松田 修著 (保育社)
  ・山野草ハンドブック 伊沢一男(主婦の友社) 
  ・薬になる花 田中孝治    (朝日新聞社)
  ・植物分類表 大場秀章 編著 (アボック社)


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